麻雀な日々(5)

麻雀な日々(5)
麻雀屋で働いている知り合いに聞いた話も、今回で最後です。
中学校の卒業後の進路として、既に町工場で働く事を決めていた彼は、スーパー銭湯で出逢ったオーナーに、麻雀屋の従業員にならないかとスカウトされました。彼は、母親を支える事が出来れば、どんな仕事でもやりこなすつもりでいたといいます
町工場での重労働も、麻雀屋の従業員も、どちらが自分にとって将来の開けた就職先だとは、その時は、全く分からなかったようです。
ただ、オーナーが、町工場よりいい給料は出すよと言った言葉に、彼は惹き付けられて、スーパー銭湯からの自宅への帰り道、オーナーの携帯電話に、連絡を入れていました。彼は中卒ですが、来月から町工場で3年ほど働いたら、麻雀屋の従業員になる、という約束をその時、オーナーと交わしました。
スーパー銭湯のサウナでのオーナーとの出逢いが雀荘で働く発端でした。町工場で3年働いた後、再び、オーナーに連絡を取ってみると、オーナーは、彼の事を覚えていてくれたそうです。雀荘で働く事を願い出ると、快く迎え入れてくれ、昼間の店番は彼の勤務で、夜の店番はオーナーが務めるという取り決めで、3年ぶりではありましたが、話合いは、すぐにまとまりました。偶然の出逢いが、今となっては必然的な出逢いであったと感じているそうです。
麻雀屋には、様々な職種の人々がやってきます。もちろん、職種や身分を隠して店を訪れる人々もいます。
その中で、とある学校教員をしているという、毎週末の夕方から店に訪れるお客様がいたそうです。先生のゲーム前の注文は、決まってビールとおにぎりです。ビールは、銘柄が決まっているので、必ず、瓶ビールを冷蔵庫に用意してあります。
その教員の人が、中卒の彼に、1冊の本をプレゼントしてくれました。「これは、高校の教科書よりも役に立つ本だから、店が暇な時に読んでおくといいよ」と、咥えタバコに麻雀パイを並べながら、彼の方を見向きもせずに呟きました。オーナーの店に訪れるお客さんは、彼の人生を何十倍も豊かにしてくれる人ばかりであります。