麻雀な日々(4)

麻雀な日々(4)
麻雀店で偶然働くことになった知り合いの話の続きです。
雀荘のオーナーと彼との出逢いは、スーパー銭湯のサウナの中でした。イビキをかいて居眠りするオーナーを、このまま眠り続けては危険だと思い、声を掛けた事がはじまりでありました。
更衣室で、再び、オーナーと出くわすと、オーナーは、黒いセカンドバッグを洗面台の上に置きっぱなしで、更衣室から出て行ってしまったオーナーを追い掛けて、慌てて更衣室の外へ走り出した彼は、スーパー銭湯の出入り口を飛び出し、ロータリーのところでちょうどタクシーに乗る直前のオーナーを捕まえました。
「スミマセン!これっ」と、オーナーが乗り込もうとするタクシーのドアに手をかけ、黒いセカンドバッグを突き渡すと、オーナーは、「いやー、また君かい。あー、そんな物を忘れてきたんだね。これは、これは、私の失態だ。お礼をしたいから、君も車に乗りたまえ」と、タクシーの後部座席に、乗るように席を開けてくれたので、「いえ、大丈夫です」と答えると、オーナーは、タクシーの運転手さんに一言断って、乗り込んだ車から降りて、こう言ったそうです。
「君とは、ご縁がありそうだ。よかったら、うちの麻雀屋に勤める気はないかい?ちょうど、君みたいな従業員を探していたんだよ。来月から、町工場に勤める事は、先ほど聞いたけれども、その街工場よりいい給料は支払うから、うちのお店に来てくれないかい?」オーナーはセカンドバッグの中から、名刺を取り出して、「もし、返事が聞けるのならば、ここに電話を下さいな。待ってるよ」と言って、名刺を私に渡すと、そのまま、先ほど降りたタクシーに、再度、乗り込んで、行ってしまったとか。
彼は、オーナーから受け取った名刺を眺めながら、麻雀屋の従業員かぁと、長風呂で力の抜けた思考回路を懸命に巡らせながら、深呼吸をしてみたといいます。